ふるさと納税で「アマダイの塩釜焼き」を割って(?)食べてみた

ふるさと納税の謝礼として提供される特産品のなかで、生鮮魚介類は難度が高いと「松葉ガニ」の回で述べた。特に魚類は、カニとちがって通販が盛んな分野でもないので、あまり提供している自治体がない。ただし干物などに加工されているものであれば、かなりの数がある。今回は、そんな加工済み・調理済みのお魚さんから候補を選ぶことにしてみた。
そして、われわれ調査隊が目をつけたのは、和歌山県高野町へのふるさと納税でもらえる「若狭ぐじ塩釜焼」だ。

和歌山のふるさと納税で福井の特産品をゲット!?

「ぐじ」(ぐぢ)とはアマダイ(甘鯛・尼鯛)の方言だが、紀伊半島内陸の高野町が、なにゆえ福井県若狭湾の魚を取り扱っているのか。高野町といえば、真言宗の聖地にして世界的に有名な霊場・高野山がある。その開祖である弘法大師・空海は、若狭に行脚して熱心に布教をおこなったりお寺を建てたり一夜にして石仏を彫ったり(片手観音)するなど、多くの足跡を残している。その縁で、高野町では空海ゆかりの地の特産品も提供しているようだ。ほかに京都や香川の品も用意されている。
こうしたケースは他の自治体にも見られ、姉妹都市のよしみで特産品を交換していたり、震災の避難先の関係で交流を深めた自治体同士が互いに特産品を紹介し合っていたりする。ふるさと納税の謝礼競争が激化しているといったニュースが流れる一方で、わが町のことばかり考えている自治体だけではないことが知れる、ちょっと心のあたたまる事実だ。
なにはともあれ、弘法大師のご遺徳により、われわれ調査隊は、高野豆腐や南高梅といった高野の名産を華麗にスルーして、若狭のアマダイへと飛びついたのだった。


高野町のふるさと納税システムは……

和歌山県高野町のふるさと納税は、ポイント制とカタログギフト形式を採用している。ふるさと納税をおこなうと、寄附金額に応じたポイントがあたえられ、そのポイントを使ってカタログから商品を注文するという流れだ。今回のように、目当ての商品が決まっている場合は、いささか面倒くさい。
高野町のサイトから寄附を申し込んだのが2015年2月下旬のこと。無味乾燥なメッセージの自動返信メールが届き、本文のURLからYahoo!公金支払いのページに飛んでクレジットカードでの支払いを済ませる。その後、一切の音沙汰はなし。その17日後に高野町から納税証明書が郵送で届き、その4日後にJTBからカタログギフトが届いた。カタログにはIDとパスワードが付属しており、専用サイトから特産品を選んで申し込む。そうして1週間後に商品が送られてきた。寄附の申し込みから特産品の到着まで、4週間かかっているわけだが、回りくどいと言わざるをえない。申し込み&支払い時点で商品を選べていたなら、最短1週間で済む話ではないかと思ってしまう。しかも最初の自動返信メール以外まったく連絡がないのも気になる点だ。外部2社のサービスに委託して高度にシステム化されているわりには、いや、むしろそれゆえに、迅速さにも丁寧さにも欠ける冗長なプロセスだった。
なお、お目当ての「若狭ぐじ塩釜焼」は12,000ポイントなので、30,000円の寄附をして15,000ポイントをもらった。あまった3,000ポイントで「スモークアトランティックサーモン 3P」も注文した。


ようやくアマダイ到着! しかし、さらなる悲劇が……

タイの名を持つ魚はあまたいるが、真のタイたるマダイ(真鯛)の近縁種(タイ科)は少ない。アマダイは、キツネアマダイ科の魚類であり、いわばニセダイ派に属してしまうが、れっきとした高級魚であり、料亭料理によく使われる食材だ。そのアマダイをまるごと一匹、塩ですっぽりおおって焼き上げたのが塩釜焼き。「若狭ぐじ塩釜焼」には、その焼き固まった「塩釜」を割るための木槌まで付属しており、これは絵的にも楽しいにちがいないと、調査隊は期待していたのだったが……


アマダイ開封前画像

ともあれ、待望のアマダイは木箱に入って届けられた。箱を開けると、紙におおわれたミイラのような姿が現れ、付属の木槌もかたわらに添えられている。なにやら怪しげな儀式が始まりそうな雰囲気だが、紙の包帯を解くとご遺体はアルミホイルに包まれており、ちゃんと料理が入っていたと安堵させてくれる。
さて、いよいよ塩釜とご対面だ。今や遅しと木槌をかまえ、わくわくしながらホイルをめくったわれわれ調査隊は、そこに悲しい光景を目撃した。


塩釜画像

肝心の塩釜が、大部分すでに割れて崩れ始めていたのだ。ショックに勝てなかった梱包が悪いのか、ショックをあたえた宅配業者が悪いのか、それはわからないが、調査隊が少なからずショックを受けたのは事実だ。もっとも、塩釜はあくまでも調理法であって、鏡開きのごとく景気よく木槌で割って盛り上がろうというのは、その調理法が結果的にもたらす副産物にすぎず、塩釜が勝手に割れていたからといって味が落ちたりするわけではないだろう。あえて責任を問うほどのことではないにちがいない。が、しかし……残念だ。


塩釜を割る画像

それでもまだ、割れる部分は残されている。気を取り直して木槌を手にし、コツコツと砕いてゆく。化石か遺跡の発掘のごとくであり、まったく景気はよくないが、まあそれなりに楽しい。そして塩にうずもれたアマダイの姿が浮かび上がってくるのを見れば、それなりにテンションも上がる。奉書だろうか、塩に直接アマダイが触れないように紙につつまれていた。


なにはともあれ「若狭ぐじ塩釜焼」を実食する!

塩釜からアマダイを取り出し、奉書をめくり取って、適当に包丁を入れて取り分け、さあいよいよ実食だ。


アマダイアップ画像

味さえよければ、先ほどの塩釜の件もチャラになるはずだと、われわれ調査隊はあわてて箸をつけ、口に運んでみたが、どうにもピンとこない……いや、これはあたためたほうがよいということになって、レンジでチンしてみた。すると食感も味わいも雲泥の差がみとめられた。
漢字で「甘鯛」の名は伊達ではない。その身はふんわりとして甘味があり、上品な白身の気高い旨味に満ちていた。身には昆布が挟みこまれているが、その上下でかなり味わいにちがいがある。昆布より下は塩気が強く、ごはんのおかずよりも、酒のつまみになりそうなテイストだ。ぜいたくだが、お茶漬けにしてもよいかもしれない。
身の甘味はアマダイのものだろうが、ふんわりやわらかな食感は塩釜焼きという調理法によるものかもしれない。とても食べやすく箸がすすみ、われわれ調査隊はアッという間にアマダイのすべてをたいらげてしまったのだった。


スモークアトランティックサーモン開封前画像

「スモークアトランティックサーモン」についても触れておこう。チリ産のアトランティックサーモン(タイセイヨウサケ)を、和歌山県内にて、国産のリンゴのチップを使ってライトスモークにしたもので、なかば和歌山の特産品と言える。


サーモンサンド画像

パンにレタスなどとともに挟んで食べてみたが、なかなかおいしかった。あくまでオマケな量なので、ほかに食べ方をためせなかったが、これはよいオマケだった。


塩釜焼きのアマダイの味に不満はないが……

和歌山県高野町のふるさと納税を介してゲットした福井の「若狭ぐじ塩釜焼」。入手までのプロセスに不満があったり、楽しみにしていたイベントが不景気に終わったりという大きな難点はあったものの、アマダイの味そのものには文句がない。珍しい料理を充分に楽しませていただいた。


若狭ぐじ塩釜焼画像

とはいえ、30,000円という寄附金額を考えあわせてしまうと、お得感というレベルでの満足はない。自治体へのふるさと納税でよその自治体の特産品を入手する変則的な方法で、なにか珍しい高級料理を食べてみたいという好事家にはおすすめだが、純粋に高野町に貢献したいという人には、普通に高野豆腐や紀州南高梅をおすすめしたい。


2015年10月5日

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